農学部 生物資源環境学科 生物資源生産科学コース 生物生産環境工学分野
  大学院生物資源環境科学府 環境農学専攻 生産環境科学教育コース
 

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最近の研究

灌漑・水利用に関する研究

シートパイプを用いた水管理技術の開発(凌)
 シートパイプは,多数の小穴が開いた硬質ポリエチレン製のシートでパイプを作り,浅埋設暗渠排水資材として利用されます. このシートパイプに自動給水装置を付加し,地中灌漑機能を持たせることで圃場の水管理の負担を軽減することがきます. このような灌漑と排水の一体管理が可能な装置を開発するため,水移動機構や通気効果の解明,施工の基準化などを行っています.
参考:日本シートパイプ普及協会(JASPiP)

写真:シートパイプ灌漑排水システム(SPIDIシステム)

農業体系の変化が農業用水需給に及ぼす影響の解明(畑作:凌,水田作:谷口)
 生産調整の廃止やTPPなどの経営条件の変化により,日本の農業は大きな変革期を迎えており,農業の大規模化,水田の汎用化,6次産業化などの様々な対策が検討されています. これらの対策にともなって栽培作物や栽培時期を変更した場合,その地域での用水需要が大きく変化する可能性があります. また,将来の気候変動にともなって積雪・融雪時期や降雨パターンが変化することも予測されており,流域内の利用可能水量も量的,時期的に変化することが懸念されます.
 本研究では,現地観測や水文解析によって農業体系の変化が用水需給に与える影響を検討し,将来の農業体系に適した用水供給の在り方を検討したいと考えています.

写真:農村地域における都市化(混住化)

灌漑水田地域内における水温変化構造の解明とそのモデル化(谷口)
 水温は農業生産や水生生物の生息環境に大きな影響を及ぼす重要な因子であり,河川や貯水池における水温変化については多くの研究が行われてきました. 一方,日本の灌漑期においては流域内の水の多くが灌漑用水(特に水田灌漑)として利用されています.そのため,流域内の水温変化を評価・予測するためには,河道だけでなく水田地域内での水温変化も考慮する必要があります. しかし,水田地域内では農家による水管理(配水,湛水,排水)などの人為的な影響を受けるため,水動態や水温変化に関する知見が十分ではありません.
 本研究では,現地観測によって水田地域内で生じている水温変化の構造を明らかにし,それをモデル化することを目指しています.

写真:水位・水温計の設置

水田灌漑地域における水動態と水管理実態の解明と観測手法の構築(谷口)
 日本を含む多くの国々では,利用できる水資源の多くを灌漑用水として利用しています.特に水田灌漑は多くの水を利用するため,流域や地域の水循環に大きな影響を及ぼします. 一方で,水田地域では取水したすべての水を地域内で消費するわけではなく,その多くは排水として排水路や河川に還元し,再び下流水田地域で用水として利用されます(反復利用). そして,このような水動態や水循環は,水田地域内での水管理に大きく関わっています.
 本研究では,水田灌漑地域内での水動態や水管理の実態を現地観測によって明らかにし,効率的かつ持続的な農業水利用の在り方を検討しています.また,それらの目的を実現するために必要な観測手法の検討も行っています.

写真:多層流向流速計(ADCP)による流量観測

農業DXに向けた農業データの整備・管理体制の検討(谷口)
 近年,農業でも自動化やICT化が進んでおり,「スマート農業」が一つのキーワードになっています.このような技術の導入は農家(圃場)レベルでは急速に進んでいますが, その一方で地域レベルの生産基盤(例えば,水路や農道など)に関する情報の整備やそれを営農に活用する体制は十分とはいえません.
 本研究では,農業データの現状を把握することで整備・管理上の課題を明らかにし,今後の方針について検討しています.

写真:農地と水利施設

農業の多面的機能に関する研究

大規模断水時における生活・防火用水供給施設としての地域内水利施設の活用(谷口)
 大規模災害時には,しばしば長期断水が発生し,生活用水(例えば,トイレ用水)の確保が大きな問題となります.生活用水は飲用水に比べて水量が多いため備蓄することが難しく,今のところ有効な対策がありません. 農業は必要な水量が多く,農業水利施設はその水量を供給できる非常に大きな通水能力を有しています.ただし,現状では水利権によって通水できるのは灌漑期に限定されており,また,その使用目的も農業に限られています.
 本研究では,災害等の緊急時において,既存の農業水利施設を用いて生活用水を供給することによる効果を分析するとともに,それを実現するために必要な対策や,効果をより促進するための方策について,現地踏査,GIS解析,経済分析などの手法を用いて検討しています.

写真:住宅街を流れる農業用水路(栃木県小山市)

黄金川(福岡県朝倉市)に自生するスイゼンジノリの保全に関する研究(谷口)
 福岡県朝倉市を流れる佐田川支流の黄金川は,環境省レッドリスト絶滅危惧 I 類スイゼンジノリが現存する唯一の自生地です. しかし近年,湧水を水源とする黄金川流量が減少して以降,スイゼンジノリの生産量はピーク時(1993年)の3%程度(年間約 7 トン)まで減少しています.
 本研究では,黄金川の流量(湧水量)減少の原因を明らかにするとともに,今後のスイゼンジノリの保全対策について検討しています.
研究協力:遠藤金川堂

写真:黄金川(福岡県朝倉市)

水田ソーラーシェアリングの課題とその解決策の検討(谷口)
 米価の低下により水田農業における収益性の確保が困難であり,今後もこの傾向は継続することが予想されます.日本の水田農業を維持していくためには,農業所得に加えて新たな収益の創出が不可欠です. その一つとして,農業を行いながら太陽光発電による売電収益も得られる「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」が各地で行われています.しかし,ソーラーシェアリングでは日射を遮ることによって作物の収量や品質を低下させること, また,太陽光発電設備(架台)のために農作業効率が低下することなどの理由により,日本の農地面積の多くを占める水田でのソーラーシェアリング導入事例は限られています.
 本研究では,現地調査や数値解析によってこれらの課題を解決し,水田ソーラーシェアリングの実現を目指しています.
研究協力:讃岐の田んぼ
研究協力:AKANE(大和総研社内ベンチャー)

写真:水田ソーラーシェアリング(香川県丸亀市)

農村地域が有する雨水貯留機能の評価(谷口)
 農地は一時的に雨水を貯留する「洪水防止機能」を有することが知られています.しかし,最近の豪雨では,水路や農地の畦畔を越流し,より広範囲に湛・・謔ェ広がっている事例が多く見られます. この場合,農業が有する洪水防止機能は,圃場だけではなく農村地域全体で評価する必要があると考えられます.
 本研究では,農地だけでなく,水路やため池などの水利施設,農道などを含む農村地域全体での雨水貯留機能を評価する研究を実施しています
  
写真:豪雨時の水田と水路(左),土砂が堆積した農地(右)

圃場排水に関する研究

シートパイプによる排水機構の解明と利用技術の開発(凌)
 前述のシートパイプを用いた場合の,圃場における排水機構の解明とそれを容易に利用するための技術開発を行っています.シートパイプを用いた排水においては,疎水材などを用いないために, 土中の亀裂が大きな影響を及ぼします.特に粘性土では,シートパイプの埋設により,土中に通気されることにより容易に亀裂が発達するようです.この状況を確認したり,モデル化したりする工夫をし, 水移動のメカニズムを解明しています.これらを解明することで,シートパイプの最適な埋設深さ,配置間隔や補助暗渠であるモグラ暗渠の影響などを解明しています.
参考:日本シートパイプ普及協会(JASPiP)

写真:シートパイプ試験圃場(大分県宇佐市・大分県農林水産研究指導センター)

塩類集積抑制対策の検討(凌)
 塩類集積は特に乾燥地で深刻な・竭閧ナあり,近年の気候変動により,更に干ばつが激しくなるなどのために,砂漠化と同様に被害が拡大しています. 塩類集積のメカニズムや対策はある程度確立されていますが,この被害が無くなったわけでは無く,更に拡大の基調です.それを克服するために,シートパイプを用いた除塩技術を開発しています. 特に,津波などの被害にあった圃場では大きな効果を上げることが期待されます.更に,塩類集積を軽減する対策は工学的な技術だけではなく,農村に存在する様々な社会問題もあるようです. 特に,中央アジアで塩害被害が最悪のウズベキスタンを対象に,塩類集積対策が進まない要因の解明を,農村の社会経済的な側面から検討を進めています.

写真:塩類集積(画像提供:JIRCAS 奥田幸夫氏)

バイオマスに関する研究

地域におけるバイオマス利用技術の最適な策(凌)
 バイオマスは地域によって素材や量,生成の時期が異なり,必要な変換技術や用途・目的も異なります.バイオマス利用は,地域に特有のテイラーメイドのシステムです. 既に開発された資源循環利用診断モデルなどを援用し,地域におけるバイオマスの現状をとらえ(賦存量や利用の実態など),様々な変換技術,例えば,堆肥化,メタン発酵(バイオガス)や炭化などを導入した場合の物質循環における差異の比較を行います. 特にメタン発酵を主対象に,搬送や施用技術に関する基礎的な解析も行い,中間貯留層などの導入によって,エネルギーや経済性の改善効果を試算したり,その最適な規模や場所の選定などを支援する試算などを行っています.

写真:研究対象物の竹

炭化物による気候変動緩和策と適応策技術の確立(凌)
 バイオマスから製造した炭化物(バイオチャー)を利用し,気候変動を緩和するための対策を検討しています.例えばバイオマス(作物)は,大気中の二酸化炭素を利用して生育するために,炭化でその炭素を固定し,それを農地に貯留すれば,大気中の二酸化炭素を軽減する可能性があります. その他に炭化物の施用で農地からの温室効果ガス,特にメタンを削減することも可能です.幾つかの気候変動の緩和策があり,その定量化と影響の評価を行っています.
 一方,対応策についてもバイオチャーの施用で節水が可能となるなどの様々な効果が期待されます.バイオチャーを用いたこれらの対策の定量的評価を行っています.さらに,バイオチャーを利用したバイオトイレや,水質浄化材としての利用などにより,農村環境の改善が期待されます.

写真:木炭の電子顕微鏡画像(画像提供:千葉大学 大和政秀准教授)

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